ピースボートの地球一周の船旅から帰国後、そのままピースボートへ就職されたんですか?
いいえ。でも、就職するなら「世の中を少しでもよくする仕事がしたい」と思いました。しかし、若かったので「世の中をよくするためには、大きくお金を動かさなきゃいけない」と勘違いしてしまったんです。社会的にいいことをしている企業に、お金がまわるような仕組みを作りたいと、外資系の金融機関(リーマン・ブラザーズ)に入社しました。
ところが、配属されたのは、リーマンショックの引き金にもなったヘッジファンドセールスの部署でした。同僚も先輩もいい人ばかりだし、勤務条件もあまりにありがたい内容でした。でも、仕事の内容を平たく言ってしまえば、お金持ちの人が、よりお金持ちになるための仕事だなと感じていたんです。私はいったい何のために働いているのだろうかという想いが苦しくて、結局1年半で退職。そして、ほんの2〜3年勉強させてもらうつもりでピースボートのスタッフになり、気づけば今年で勤続14年目です。
「ピースボート子どもの家」はどういう経緯で起ち上げたのですか?

▲船で世界を旅する子ども達は、海は世界を分かつものではなく、
つなぐものだと身体でわかっています
自分に子どもができるまでの7年間は、大人向けのプログラムコーディネーターをしていました。例えば、寄港地・ケニアを訪れる前の洋上では、ジャンベの演奏者とアフリカの貧困について語れるジャーナリストを招こうとか、キューバの前には現地の有機農業の専門家を呼び、サルサ大会をやろうとか、そんな企画を作る仕事です。それを人探しから始めます。
仕事自体は、すごく楽しかったのですが、「世の中を少しでもよくする仕事」ができているかといったらまだ疑問は残っていました。平和教育・環境教育のプログラムづくりをどれだけ頑張っても、紛争も貧困もなくならない。船の上でたくさん学んで「帰国後は頑張ります!」と言う若い人たちが、なんとなく元の生活に戻って行く様子を「そんなもんなのかな」と眺めていました。そんな時に子どもを授かったんです。

▲医学的な観察に基づき、子ども一人ひとりの発達段階にあわせた
環境を用意しているピースボート子どもの家。
子どもって、すごいじゃないですか! 何度転んでも立ち上がろうとする。周りにあるすべてを受け入れ、自分ができると信じて疑わず、どこまでだって努力します。「世界を信頼する。自分にはできると信じて疑わない。とことん努力する」それって、どの人間も持って生まれる、素晴らしい性質です。子どもがこの姿勢を失わずに大人になったら、それだけで世界は平和になると思いました。
大人向けに平和を伝える教育のプログラムを作っても、大人はそれを知識や教養として自分の中にとどめてしまいがちです。一方で、子どもたちは、少しでもいい世界のために日々全力で動くことができる存在。よりよく生きることにまっすぐで、先入観や差別心のない子ども時代にこそ世界を見て欲しいと、「ピースボート子どもの家」を創設しました。
文/宇佐見明日香 撮影/井山敬介 編集/内海裕子
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