母体となるArt Miles Mural Projectのジョアンさんとの出会いは?
彼女との初めての出会いは、2004年にスロバキアで開催されたiEARN (International Education and Resource Network/グローバル教育ネットワーク)の国際会議でした。
彼女の深い人間愛と強い信念、そして溢れる情熱に心を揺さぶられたことが私の人生を大きく変えました。
ジョアンさんがこのときに語った「2010年に、ユネスコの世界遺産であるエジプトのギザで、世界中で描かれた4000枚の壁画で第四のピラミッドを造って展示する!」というとてつもなくスケールの大きな目標に圧倒されながら、私もアートマイルを日本でやってみたいと思ったのです。
でも、平和ボケしている日本の子どもたちに「平和の絵をみんなで描きましょう」と呼びかけても心が動かないだろうと思いました。美術が専門でもない私が、日本の子どもたちにとって一番意味がある形でアートマイルをやるにはどうしたらいいか? と考えたのです。


▲ロンドンとのテレビ会議で豆まき
当時、私は自分の英語教室で英語を教えながら、イギリスと世界の教室をテレビ会議で繋ぐ「Videoconferencing in the classroom」(イギリス政府主導のプロジェクト)に日本のパートナーとして関わっていました。
「そうだ、日本の子どもとたちと世界の子どもたちをインターネットで繋いで、どういう絵を描くかを一緒に考え、お互いの思いを共有してから壁画を一緒に完成させるという形にすれば、子どもたちは日本に居ながらにしてリアルに世界とつながることができる。異質なものと出会って協働する体験はきっと子どもたちにとって将来の夢を世界に広げることになるはずだ。」
と考えました。そして、公平に子どもたちがそのチャンスを受けられるようにするには、学校という公的な教育機関で行うのがベストだろうと考え、学校で取り組む学習プログラムとして「アートマイル国際交流壁画共同制作プロジェクト」を開発したのです。
2005年10月に「日本人として自国の伝統文化に誇りを持ち、世界の人々と相互理解を深め、グローバルな視野をもって自ら考え行動する次世代を育てる」という理念を掲げてジャパンアートマイル(JAM)を発足し、2006年度から日本の学校と海外の学校をつないでアートマイルを実施しています。
アートマイルはどのように行われるのでしょうか
アートマイルは9月から翌年3月までの7ヶ月間の国際協働学習の学習プログラムです。壁画はJAMが紹介する海外のパートナー校との2国間で共同制作されます。
初めての教師でも容易に取り組めるように、スケジュールと学習活動の大枠が決まっており、段階を追って進んでいきます。
まずはお互いを知るために「自己紹介」、次いで「テーマの協働学習」「構図決め」「壁画制作」と進みます。壁画は先に日本がキャンバスの半分に絵を描いて相手に送り、相手が後の半分を描いて壁画を完成させて日本に送り返します。最後に「鑑賞と振り返り」をして終了となります。

▲JAMが提供するフォーラム(電子掲示板)にて弁当比べ 日本/アメリカ
日本の子どもたちと海外のパートナー校の子どもたちは、JAMが提供するフォーラム(電子掲示板)を使ってコミュニケーションを取ります。
言語は英語です。
「小学生が英語でコミュニケーションって大変じゃない?」という声が聞こえてきそうですね。
大人でも英語だけのメッセージは読むのも書くのも大変ですし、面白くもありません。JAMでは「できるだけ写真をたくさん使いましょう!」と先生方にアドバイスしています。
例えば学校の様子を伝えるのに写真を見せれば一目瞭然です。言葉よりも正確にリアルに伝えることができます。その写真にほんの数行の英語の説明を付けるだけで、楽しく生き生きと情報を伝え合うことができるのです。
このようにして7ヶ月間やり取りを重ねながら、子どもたちは世界の同世代と相互理解を深めていきます。このときにできた友情の絆が未来を拓くのだと思います。
≫[中編]本物の英語力&グローバル・コミュニケーション力を育む「アートマイル」の魅力
≫[後編]何のために英語を勉強しているの? グローバル社会を生きる子どもの教育に必要な本当のこと
文・編集/内海裕子 撮影/トヨサキジュン
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