辰野さんの過去のインタビューで「日本と中国だけで話をすると日中の話しかできなくなるけど、3ヵ国以上で話すと、逆に世界の話しかできなくなる」という一文に心を強く打たれました。
20ヵ国100人の教育コーディネーターとして、世界を巡っていた時のことです。参加していた中国人の女の子が、日本人が嫌いだと言いだして止まらなくなってしまったんです。
移動の多い旅だったのですが、バスの移動中ずっと中国人が日本のことを悪く言い続けるということも起きました。そんな時、ドイツ人の上司に声をかけられ、「君は唯一のアジア人のスタッフだ。この現状をどうにかしたくないか?」と言われました。もちろん、どうにかしたい、と思いました。すると、参加していたシンガポール人が「私は同じアジア人として中立な立場だから」と言い、ベルギー人のメンバーも仲間に加わり、中国人と日本人それぞれの想いを聞く、アジアンフォーラムをた起ち上げることになりました。
戦時中、日本軍がしてきたことに関しての、完璧なプレゼンテーションをした中国人に対して、教わっていなかった、知らなかったと泣くばかりの日本人。
しかし、双方のプレゼンテーションを聞いていた欧米人が言いました。「過去の出来事はよくわかった。でも、僕たちは今を生きている。僕たちができるのは、今を、これからをどうするかを考えて話し合うことだよ。それに君たちがいがみ合うことで、周りの国にどんな影響があるか考えたことある?」と。
中国と日本だけでは平行線だった会話が、多国籍が参加すると「地球の未来」の話になる。日本が大嫌いだと言った中国人の女の子は、この話し合いを受けて、その後、日本に短期留学してきました。
どこにも答えはないし、誰も答えを持っていないけど、だからこそ、話し合うことが大事なんです。様々な価値観に触れながら、ともに地球の未来を創造していくべきだと強く感じています。
辰野さんが、親子留学に期待することはなんですか?
言葉を選ばずに言うなら、親子留学は、親にとっていいことだと思います。アウトオブボックス体験といって、自分の安全だと思っている箱から出る。そしてショックを受けたり、開放感を味わったりして、世界とつながる。
親が自分の箱から出たことがないと、うちの子も無理かもね、と考えてしまい、そこで全てが終わってしまう。それでは「カエルの子はカエル」になってしまうんです。
子どもと一緒に世界へ飛び出して、違う価値観に触れ、自分の生き方を見つめ直してみる。
そんな親の背中を見せる…と同時に、自分よりも臆せず世界とつながる子どもの背中を見る。守らなきゃいけないと思っていた存在の頼もしさに気づき、子育てを省みるいい機会になると思います。
グローバル教育は生涯学習です。私の母は今年64歳ですが、相も変わらず頻繁に海外に出かけ、学びと刺激を受け続けています。私たち子どもがまだ小さく、今のように親子留学という選択肢がなかった時代は、味覚で世界とつながろうと、家庭で世界中の料理を作っていました。「今夜は、兎肉のチョコレートソースがけよ」みたいな(笑)
私たちの意識次第でグローバル教育は叶うんです。自分とつながる、人とつながる、世界とつながるという意識を持って日々を暮らすのはもちろん、新たな気づきのために親子留学への挑戦をしていただける方が増えたらいいな、と思っています。
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文/宇佐見明日香 撮影/井山敬介 編集/内海裕子
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