スウェーデンのキャッシュレス社会はなぜ実現したのか|スマホ普及・モバイル決済・デジタル社会のしくみ
スウェーデンに学ぶ デジタル時代の子ども・学び・ウェルビーイング vol.1

長谷川佑子(はせがわ・ゆうこ/Yuko Elg)
Glolea! スウェーデン子育てアンバサダー

スウェーデン キャッシュレス社会はなぜここまで進んだのか?」——。北欧スウェーデンは、人口約1,000万人という小さな国でありながら、世界トップクラスのスマホ普及率キャッシュレス決済を実現したデジタル先進国です。その裏側には、都市部だけでなく森や過疎地まで「いつでも・どこでもつながる」通信インフラを整え、3G導入初期から携帯電話・スマートフォン、そして個人間送金アプリSwish(スウィッシュ)を生活インフラとして育ててきた歴史があります。本記事では、スウェーデンのキャッシュレス社会がどのように生まれたのか、スマホ普及とSwishが変えたお金の流れ、医療現場まで広がる電子化とそのメリット・リスクを、日本との違いも交えながらわかりやすく解説します。

スウェーデン キャッシュレス社会の原点|森と過疎地でも「つながる」国

こんにちは! スウェーデン女王認定 認知症専門看護師/Glolea! スウェーデン子育てアンバサダー長谷川佑子です。

 

日本ではまだ「スマホデビュー」が話題になっていた2010年前後。

 

その頃、スウェーデンの北部の森の近くに住む80代の高齢男性の親戚はごく自然にiPhoneを使いこなしていました。

デジタル化&キャッシュレス社会が進んだスマホを使いこなすスウェーデンのシニア男性

人口約1,000万人の小さな北欧の国で、なぜここまで早く携帯電話やスマートフォンが広く普及したのでしょうか

 

その背景には

都市部だけでなく、森の中や北の過疎地でも、いつでも連絡が取れること

が生活上の必須条件だった、という事情があります。

デジタル化が進んでいるスウェーデンの森の中の小屋

私は、

スウェーデンでは高齢者まで含めてここまで最新のデジタル機器が浸透しているのか!

 

とカルチャーショックを受けました。

 

そして、この「社会全体のデジタル化」は、キャッシュレス決済や医療の電子化だけでなく、子どもたちの学び方や学校教育のあり方にも大きな影響を与えてきました。

 

連載記事シリーズ「スウェーデンに学ぶ デジタル時代の子ども・学び・ウェルビーイング」でを以下の流れで日本との違いも比較しながら紐解いていきます。今回は、スウェーデンに学ぶ デジタル時代の子ども・学び・ウェルビーイング(全4回連載)第1回目として「スウェーデンで携帯・スマホがいち早く普及した背景」をテーマにお届けします。

\連載シリーズ/
スウェーデンに学ぶ デジタル時代の子ども・学び・ウェルビーイング(全4回)

  1. スウェーデンで携帯・スマホがいち早く普及した背景←今回のテーマ
  2. スウェーデンのICT教育に学ぶ|デジタル教材と紙の教科書をどう使い分けるか
  3. スマホ脳と子どもの脳・メンタルへの影響とは?スウェーデンのスクリーンタイムガイドラインと家庭でできること
  4. 特別支援×多言語教育を支えるデジタル教材|北欧インクルーシブ教育の教室デザイン

3G導入からスマホ普及率アップへ|スウェーデンのデジタル社会が立ち上がるまで

2010年頃からすでにスマホが一般的だったスウェーデン

▲2010年頃からすでにスマホが一般的だったスウェーデン

スウェーデンでは、3G回線は2003年頃にはすでに導入されており、2000年代半ば〜後半にかけて、インターネット接続や高度な機能を備えた携帯電話が急速に広まりました。

 

iPhoneは2008年にスウェーデンで発売。

 

その後、2010年頃にはスマートフォンの売上が急増し、一部のレポートでは「前年比244%増」という数字も出ています。

 

学術報告書でも、ちょうどこの2010年頃が「インターネット接続機能付きスマートフォンが国民に普及したタイミング」とされています。

 

具体的な普及率の推移を見ると、

  • 2011年:
    人口(12歳以上)の約27%がスマートフォンを所有

  • 2017年:
    同じく人口(12歳以上)の約93%がスマートフォンを利用

と、わずか数年でスマートフォンは「一部の人の新しいガジェット」から「ほぼ全国民の当たり前の道具」へと一気に変化したことがわかります。

 

北欧の中でも、スウェーデンは「スマホ普及率」「デジタルインフラ整備」の両面で、常にトップクラスに位置してきました。

2010年以降に加速したキャッシュレス決済と生活インフラのデジタル化

スマートフォンの普及と同じタイミングで、生活インフラのデジタル化も一気に進みました

 

2010年頃からは、日常のあらゆる場面でデジタルサービスが使われるようになります。

2010年以降に加速したスウェーデンのキャッシュレス決済と生活インフラのデジタル化した様子

たとえば、

  • お店での電子決済
  • バスなど公共交通機関の乗車アプリ
  • 時間貸し駐車場の支払いアプリ

といった機能が次々に導入され、現金を使わないで生活できる場面がどんどん増えていきました

 

さらに、多くのお店には

環境のために現金不可でお願いいたします

というメッセージが掲げられています。

 

支払いは電子決済のみ

 

レシートはメールで送られてくるため、財布から現金を出すことも、紙のレシートを見ることもほとんどありません。

 

パンデミックの期間中には、オンラインショッピングを利用する人がさらに増え

現金での支払いを避けたい

という意識も高まったことで、キャッシュレス化とデジタル化の流れはいっそう加速しました。

個人間送金アプリ「Swish」が変えたお金の流れとスウェーデンのキャッシュレス社会

スウェーデンで個人間送金のスタンダードになっているのが、モバイル決済サービス「Swishです。

スウェーデンで個人間送金のスタンダードになっているのが、モバイル決済サービス「Swish」の画面

2012年にスウェーデンの主要銀行によって導入された後、ごく短期間のうちに生活に溶け込んでいきました。

  • 2015年頃:
    アクティブユーザーが300万人を超える(※当時の人口は約900万人)

  • 2022年:
    800万人以上(人口約1000万人)の個人ユーザーが利用

と、今ではほぼ「全国民インフラ」と言えるレベルで普及しています。

 

日常生活では、

  • 友人同士での割り勘
  • 子どもの保護者会での集金
  • フリマやバザーでの支払い

など、ちょっとしたお金のやり取りのほとんどがSwishで完結します。

 

2021年のデータでは

直近の個人間支払いの84%がSwishによるもの

と報告されており、特に64歳以下のほぼすべての年齢層で広く利用されていることが確認されています。

 

日本でいう「銀行振込+Pay系サービス+PayPay送金」のような機能が、1つのインフラとして国民全体に行き渡っているイメージです。

医療現場まで広がるデジタル化|電子カルテとオンライン連携で実現する「つながる医療」

医療現場まで広がるスウェーデンのデジタル化|電子カルテとオンライン連携で実現する「つながる医療」を使う医師の様子

社会全体のデジタル化は、医療の現場にも広がっています。

 

デジタル患者記録(電子カルテ)は2012年頃から病院や地域医療で導入され始め、2016年頃にはスウェーデン全土で普及しました。

 

病院と家庭医(かかりつけ医)はオンラインでつながっており、患者の同意さえあれば、

  • どの医師がいつ診察したのか
  • どの専門医を受診したのか
  • どんな検査や治療を受けてきたのか

といった情報を、一元的に確認できる仕組みになっています。

 

これは、安全な医療の提供や、診断ミスの防止にも大きく役立っています。

 

処方箋ももちろんデジタル化されています。

 

オンライン上で、どの街のどの薬局に薬の在庫があるのかを検索できます。

 

患者は在庫のある薬局に行き、IDを提示するだけで適切な処方薬を受け取ることができます。

 

薬剤師がオンライン上で処方履歴を確認しながら薬の相互作用についても確認チェック可能。

  • 複数の医師から同じ薬が二重、三重に処方される
  • 薬の飲み合わせが危険になる

といったリスクも最小限に抑えられています。

 

医療の分野でも、「つながるデジタルインフラ」が安心・安全の基盤になっているのです。

スウェーデンのデジタル社会が持つ「快適さ」と「もろさ」

システムがテクノロジーとデジタルインフラに依存しているスウェーデンを表す画像

スウェーデン人はこのようなデジタル社会について

  • デジタルサービスと支払いの利便性
  • スピード
  • 効率性

を高く評価しています。

 

一方、システムがテクノロジーとデジタルインフラに依存していることについて、深刻な懸念もあります。

 

近年は他国からのハッキングも多発しており、自分達のインフラが国際的な治安に影響されることを職場などでも普段から話題にしています。

まとめ|スウェーデンのキャッシュレス社会から学ぶ「デジタル化と社会デザイン」

スウェーデンのキャッシュレス社会から学ぶ「デジタル化と社会デザイン」を表す画像

スウェーデンの例を見ると、デジタル化は単に「便利になる」ためのツールではなく、

  • 過疎地を含めた国土全体をどうつなぐか
  • 現金社会からキャッシュレスへ、生活をどうなめらかに移行させるか
  • 医療・教育などの公共サービスをどう連携させるか
  • その仕組みをどう安全に守り続けるか

といった 「どんな社会を設計したいのか」という問い と、切り離せないことが見えてきます。

 

日本でもすでに、

  • マイナンバー
  • キャッシュレス決済
  • オンライン診療
  • 学校現場でのICT活用

など、少しずつデジタル化の取り組みは広がっています。


一方で、スウェーデンのような「国土や人口規模の違う国が、どのような優先順位でデジタル化を進めてきたのか」を知ることは、日本のこれからを考えるうえでも参考になる部分があるかもしれません

 

連載シリーズ「スウェーデンに学ぶ デジタル時代の子ども・学び・ウェルビーイング」
次回以降の記事では、こうしたスウェーデンの“社会全体のデジタル化”が、実際の学校教育や子どもの学びの現場(インクルーシブ教育・特別支援教育・多言語教育)にどのような形で表れているのかなどを、具体的なエピソードとともに見ていきます。

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記事をお読み頂きありがとうございました!

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長谷川佑子(はせがわ・ゆうこ/Yuko Elg)
Glolea! スウェーデン子育てアンバサダー
ウプサラ

2008年からスウェーデン王国、ウプサラで暮らしています。スウェーデン人の夫、3歳の娘の3人家族。森でのベリー摘み、湖での水遊び…日本とはちょっと違った子育てをしつつ、北欧文化を体験する日々です。 母親も外で働くのが当たり前の国での社会のしくみ、女性たちの生き方もお伝えしたいと思います。

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