スウェーデンのICT教育に学ぶ|デジタル教材と紙の教科書をどう使い分けるか
スウェーデンに学ぶ デジタル時代の子ども・学び・ウェルビーイング vol.2

長谷川佑子(はせがわ・ゆうこ/Yuko Elg)
Glolea! スウェーデン子育てアンバサダー

北欧スウェーデンのICT教育は、タブレットやデジタル教材の一人一台端末環境を早くから整備しつつ、近年はあえて紙の教科書・ノート・ペンを重視する「アナログ回帰」の方針を打ち出したことで注目を集めています。2010年頃から進んだ学校のデジタル化・オンライン授業の経験を踏まえ、スウェーデンの教育現場では、子どもの発達段階・学習内容・集中力や読み書きの基礎力に応じて、デジタル教材とアナログ教材をどう組み合わせるかを細かく工夫しています。本記事では、「スウェーデン ICT 教育」「スウェーデン 教育 デジタル化」「紙の教科書 スクリーンタイム」といったテーマに沿って、2010年以降の政策の流れ、2023〜2024年の紙重視への転換、小学校〜中学校での具体的な教科書の使い分け、子どもたち・保護者・教師が感じているメリット/デメリットを、現場の声とともにわかりやすく解説します。

目次

デジタルとアナログを「使い分ける」スウェーデンのICT教育

デジタルとアナログを「使い分ける」スウェーデンのICT教育

こんにちは! スウェーデン女王認定 認知症専門看護師/Glolea! スウェーデン子育てアンバサダー長谷川佑子です。

デジタル教育もアナログ教育も、子どもの発達段階やニーズ、教育の目的に合わせて使い分ける——

そんな考え方のもとで、スウェーデンのICT教育は発展してきました。

 

スウェーデンは2010年頃から本格的にICT教育・デジタル教材の導入を進め、どのクラスからでもオンライン教材にアクセスできる環境を整備しました。

ICTが浸透しているスウェーデンの教室の様子

いわば「全国的にデジタル教育が浸透した」と言えるタイミングで、国はあえて学校教育では紙とペンを重視する“アナログ回帰”の方針を打ち出しています。

 

今回は、連載記事シリーズ|スウェーデンに学ぶ デジタル時代の子ども・学び・ウェルビーイング(全4回連載)第2回目として「スウェーデンのICT教育に学ぶ|デジタル教材と紙の教科書をどう使い分けるか」をテーマにお届けします。

\連載シリーズ/
スウェーデンに学ぶ デジタル時代の子ども・学び・ウェルビーイング(全4回)

  1. スウェーデンで携帯・スマホがいち早く普及した背景
  2. スウェーデンのICT教育に学ぶ|デジタル教材と紙の教科書をどう使い分けるか←今回のテーマ
  3. スマホ脳と子どもの脳・メンタルへの影響とは?スウェーデンのスクリーンタイムガイドラインと家庭でできること
  4. 特別支援×多言語教育を支えるデジタル教材|北欧インクルーシブ教育の教室デザイン

なぜ「アナログ回帰」が起きたのか?スウェーデンのICT教育とデジタル化の流れ

2010年頃から始まったデジタル教材と一人一台端末|スウェーデンICT教育のスタート

ICT教育の一環でスウェーデンの保育園でタブレット端末を使う幼児の様子。

娘が保育園に入った2010年頃からスウェーデンの教育現場では

これからは教育にもデジタルを積極的に使っていこう

という空気が一気に強まっていきました。

 

日本の公立学校におけるICT教育・GIGAスクール構想が本格的に動き出したのは2020年度ですから、スウェーデンは日本より約10年早くデジタル教育に舵を切っていたことになります

 

スウェーデンの保育園では、例えば

  • タブレット端末でQRコードを読み込み、保育者の写真やメッセージを表示
  • 簡単なプログラミングでロボットを指示通りに動かす知育アプリを使う

など、幼児期から自然にICTに触れる環境が整えられてきました

 

その後、スウェーデン中の学校でWi-Fi設置が進み、どのクラスでもデジタル教材・オンライン教材を使えるICT環境が整備されました。

 

さらに、学校では子どもたちに一人一台のタブレット端末またはノートパソコンを貸し出す取り組みが始まります。端末の種類や貸し出し開始学年などの細かな運用は、学校ごとに決められています。

コロナ禍でオンライン授業がスタート|ICT教育が一気に「当たり前」に

ICTが浸透しているスウェーデン。家庭教育や学習でもICTを利用している様子。

2020年頃までには、多くの子どもがすでにデジタル端末やオンライン学習に慣れていました。

 

ちょうどそのタイミングで新型コロナウイルスのパンデミックが起こり、スウェーデンの高校・大学ではオンライン授業への移行が進みましたが、学生にとってICT環境そのものは

新しくて難しいものというより、もともと使い慣れていたツールが学習の主役に移った

というイメージに近かったように思います。

 

一方で、小学校や中学校では、スウェーデンは世界的にも珍しい「ロックダウンをしない国」として、できる限り対面での授業を継続する方針をとりました。

2023〜2024年の方針転換:紙の教科書とスクリーンタイムを見直す

ICT先進国だったスウェーデンの教室がアナログ回帰した様子

社会全体にICT教育・デジタル教材が行き渡った頃、2023年。

 

教育庁のエドホルム大臣は、学校教育において

紙の使用を増やし、スクリーンタイムを減らす

という、これまでのデジタル推進一辺倒とは異なる方針を打ち出しました。

 

さらに2024年には、

  • 小学校は完全にスクリーンフリーにすべき
  • 読み書きの学習は、実物の本・紙・ペンを使ったアナログ環境が最適

と明確に示しています。

 

この方針転換により、スウェーデン全土の学校では、

  • 印刷された本を読む時間
  • 静かに読書する時間
  • 手書きで文字や計算を練習する時間

といったアナログな学習活動の比重が高まる傾向が見られます。

アナログ回帰で手書きでエッセーを書くスウェーデン人の女生徒

その一方で、タブレットを使った自主的なオンライン調査や、キーボード操作のスキル習得に割く時間は以前より減ってきています。

 

とはいえ、どれだけICT教育が推進されていた時期でも、子どもが紙の本を読むこと自体は常に強く推奨されており、

紙の本をやめてすべてデジタル教科書に置き換えるべきだ

という意見は、少なくとも私は現場でほとんど聞いたことがありません。

現場で見える“デジタル×アナログ”のICT教育|スウェーデン社会の教育への関心

教育をめぐる社会全体の関心の高さ

教育は「国の未来をつくるテーマ」として社会全体の関心が非常に高いスウェーデンの生徒たち

スウェーデンでは、教育は「国の未来をつくるテーマ」として社会全体の関心が非常に高い分野です。

 

変化の速い社会で、

  • どのような教育が子どもにとってよいのか
  • どのようにして未来のスウェーデンを支える人材を育てていくのか

といった問いが、政治の場だけでなく家庭でも日常的に話題になります

 

私の勤務先である高齢者施設に暮らす90代の方でも、子どもの教育に強い関心を持ち、自分なりの意見を語る人が多く、その姿はまさに「教育立国スウェーデン」を象徴しているように感じます。

国の統一教科書はない!教科書を決めるのはコミューンと学校現場

「紙 × デジタル」を組み合わせたICT教育の形をデザインされているスウェーデンの学校教育で学ぶ女生徒

スウェーデンの教育を理解するうえで欠かせないのが、義務教育の運営主体が自治体コミューンであるという点です。

 

そのため、子どもに最も近いレベルで、さまざまな教育の方針や教材選びを決めることができます。

 

スウェーデンの学校では、国が統一教科書を決めるのではなく、学校ごと・クラスごとに教員が教材を選ぶスタイルが一般的です。

 

紙教材・デジタル教材を問わず、担当教員が

  • クラスの子どもたちの実態
  • 教科や単元のねらい

に合わせて、「紙 × デジタル」を組み合わせたICT教育の形をデザインしていきます。

中学3年生のクラスでの教科書の使い方(具体例)

スウェーデンの中学生はクラスでデジタル教科書・アナログの紙の教科書が併用されている様子。

中学3年生の娘のクラスの例をご紹介します。

  • 算数:
    デジタル教科書と紙の教科書を併用し、ノートには手書きで計算や式を書く。

  • 理科:
    デジタル教科書と紙の教科書の両方を使う。

  • 国語:
    教科書は6年生から存在しない。

  • 英語:
    8年生まではデジタルと紙の教科書があり、文法は教科書で学習。
    9年生では教科書はなくなり、子どもたちのプレゼンテーション、自分の意見を書く課題、短い動画を見てディスカッションする授業スタイルへ。

  • 社会:
    デジタル教科書と紙の教科書の併用。

このように、デジタル教科書と紙の教科書の比率は、教科や学年、授業の目的によって大きく異なります。

子どもたちが感じる「デジタル教科書 vs 紙の教科書」|スウェーデンICT教育のリアル

教育の主役である子どもたちは、スウェーデンのICT教育をどのように受け止めているのでしょうか。

 

ここでは、私が周囲の子どもや保護者から聞いた声をまとめます。

アナログ教科書のメリット|集中・理解・家庭学習のしやすさ

アナログの紙の教科書で学ぶスウェーデンの子どもたち

  • 集中しやすい
    紙の教科書だと「気が散りにくく、集中しやすい」と感じる子がいます。

  • 親が学習をサポートしやすい
    宿題を紙で行うことで、子どもがどこにつまずいているのか保護者が把握しやすく、手助けもしやすいという声があります。

  • 数学や化学など、複雑な問題と相性が良い
    「数学」や「数学+化学」は紙とペンの方が考えやすいと答える子もいます。複雑な数式や計算過程を紙の上で書きながら整理できる点が理由です。

アナログ教科書のデメリット|重さと持ち運びの負担

  • 持ち運びが大変
    紙の教科書は重く、かさばります。

  • 持ち帰れない教科書もある
    学校によっては、教科書を家庭に持ち帰ってはいけない場合もあります。

デジタル教科書のメリット|動画・ゲーム・フィードバックで学びを支える

デジタル教科書で学ぶスウェーデンの子どもたち

  • 楽しく学べる機能がある
    ゲーム感覚で算数を練習できる教材も多く、楽しさを感じながら学べるという子がいます。

  • 動画で学べる
    動画による解説の方がわかりやすいと感じる子も少なくありません。

  • スペルミスの減少や提出のしやすさ
    「紙だとスペルミスが多いので、英作文はデジタルで提出したい」と話す子もいます。

  • 練習問題が豊富で、すぐ答え合わせできる
    特に数学のデジタル教材では、難易度別の問題が多く収録されており、解答までのステップが詳しく表示されるため、自分で振り返りやすい点をメリットと感じる子もいます。

デジタル教科書のデメリット|目の疲れ・集中力・内容の質

  • 目が疲れやすい・集中しにくい
    長時間画面を見ることで「目が疲れる」「集中しにくい」と感じる子もいます(4年生の子の意見)。

  • 学年が上がると負担に感じることも
    高学年になると、タブレットを持ち帰って宿題をするなど、デジタル機器の使用が必須になることに戸惑う子もいます。

  • デジタル教材の内容が簡単すぎることがある
    かつて利用していた算数のデジタル問題集について、「内容が簡単すぎて、あまり役に立ったとは感じなかった」という声もありました。

紙教材×デジタル教材を併用するスウェーデンの工夫|スクリーンタイムと基礎学力のバランス

紙教材×デジタル教材を併用するスウェーデンの教室と子どもたちの様子

教科書出版社団体の統計によると、教材費の内訳は

  • 紙による印刷物:32%
  • 純粋なデジタル教材:13%
  • 紙とデジタルが組み合わさった教材:55%

と報告されており、現場では紙とデジタルを組み合わせたハイブリッドなICT教育が主流になっていることがわかります。

 

教員によっては、授業中に学んだことや自分の感想を書くとき、あえて

ここは紙とペンで書いてみよう

と指示することもあります。

 

パソコンでの文章作成は、検索結果をベースに文章を作ったり、AIで文章構成や語彙を整えたりすることができます。その一方で、

  • 自分の言葉で考える機会が減る
  • 語彙力・構成力とじっくり向き合う時間が奪われる

といった懸念もあります。

 

そのため、学年や教科に応じて「あえて紙で書く」場面を残すことが、スウェーデンのICT教育の大切な工夫になっています。

 

教育庁もまた、

  • 人間関係を築く力
  • 注意力・集中力
  • 読み書き・計算などの基礎スキル

は、紙やペンを使ったアナログな学習環境で最もよく育まれるという研究結果を紹介しています。

 

特に低学年では、物理的な本や紙にしっかり触れることを重視し、デジタル教材は科学的根拠や教育的な付加価値を基準に慎重に選定し、年齢が上がってから活用することで、その効果を最大限に引き出そうとしています。

まとめ|スウェーデンのICT教育から学ぶ「デジタルとアナログの賢い使い分け」

スウェーデン人の女生徒

あらためての結論として、スウェーデンのICT教育は

デジタル教育もアナログ教育も、子どもの発達段階やニーズ、そして教育の目的に合わせて賢く「使い分ける」

という考え方のうえに成り立っています。

 

「どちらか一方を選ぶ」のではなく、紙とデジタル、それぞれの強みを理解したうえで組み合わせていく姿勢こそが、スウェーデン教育の大きなポイントかもしれません。

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記事をお読み頂きありがとうございました!

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長谷川佑子(はせがわ・ゆうこ/Yuko Elg)
Glolea! スウェーデン子育てアンバサダー
ウプサラ

2008年からスウェーデン王国、ウプサラで暮らしています。スウェーデン人の夫、3歳の娘の3人家族。森でのベリー摘み、湖での水遊び…日本とはちょっと違った子育てをしつつ、北欧文化を体験する日々です。 母親も外で働くのが当たり前の国での社会のしくみ、女性たちの生き方もお伝えしたいと思います。

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