北欧スウェーデンのスクールナースとは?学校でのトラブル対応や発達障害支援などはチームで支える子どもを一人にしない仕組み
- 長谷川佑子(はせがわ・ゆうこ/Yuko Elg)
- Glolea! スウェーデン子育てアンバサダー
北欧スウェーデンの学校保健では、保健室に常駐するスクールナースと、生徒ヘルスケアチームが連携しながら、子どもの心とからだの健康を支えています。小学0年生〜中学1年生の個別の健診・健康面談を軸に、発達障害や学習困難への特別支援、クラスでのトラブル対応、メンタルヘルスの相談までをチームで支えるのが特徴です。本記事では、スクールナースの役割/生徒ヘルスケアチームの専門職構成/学年ごとの健診・面談内容/守秘義務と子どもの同意の扱い方/トラブルがあっても子どもを一人にしない仕組みについて、現場の実践にもとづき要点解説します。
目次
スウェーデンの学校保健と保健室|子どもの安心と健康を支えるスクールナースとは?
こんにちは! スウェーデン女王認定 認知症専門看護師/Glolea! スウェーデン子育てアンバサダー長谷川佑子です。
前回の記事、産後うつ予防にもつながるスウェーデンの産後ケアと、0〜5歳の子ども・ママ・パパを支える子育て支援のしくみにてご紹介した通り、スウェーデンでは、子どもが0歳〜小学校入学前までは、子どもは地域の「子どもケアセンター」において、家族とともに継続的に成長発達や健康のサポートを受けることができます。

小学校0学年からは、そのサポートを学校にいる看護師が引き継ぎます。
今回は、「北欧スウェーデンのスクールナースとは?学校でのトラブル対応や発達障害支援などはチームで支える“子どもを一人にしない”学校の仕組み」をテーマにお届けします。
スウェーデンの学校保健の基本的な考え方

スウェーデンの学校でも、日本と同じように、休み時間にけがをした子どもが手当てを受けに来たり、頭が痛い子どもが
少し休みたい
と保健室を利用したり、相談に来たりします。
しかし、スウェーデンの保健室は学校看護師=スクールナースが常駐し、ちょっと休みたいという相談だけではない、さらに大きな役割を持っています。
スクールナースは、すべての生徒と定期的に面談を行い、
- 子どもの成長発達が健やかに進んでいるか
- 学習環境がその子どもにとって適切か
- 家庭・学校の両方で安心して生活できているか
といった点を、継続的に見守っています。
スウェーデンの学校看護師(スクールナース)の役割と仕事内容
スウェーデンのスクールナースとは?

▲スウェーデンの小学校の保健室
スウェーデンの学校には「スクールナース」と呼ばれる看護職が常駐しています。
病院などで一般看護師として経験を積んだあと、スペシャリスト看護師のコースで学んだ地域専門看護師もしくは子ども専門看護師です。
このスクールナースが、子どもや若者の身体的・精神的・社会的な健康と成長、学びを支える存在です。
子どもを支援するさまざまな専門職とともに「生徒ヘルスケアチーム」の中心となり、学校の中でのサポートに加えて、医療機関との連携も行います。
スクールナースが担う主な仕事(健診・予防接種・健康相談など)

▲スウェーデンの学校校舎
スクールナースの具体的な仕事には、たとえば次のようなものがあります。
- 健康診断
- 予防接種
- 健康教育や生活習慣についてのアドバイス
- 心と体の不調に関する相談・サポート
これらは、あらかじめ予定された健康面談だけでなく、子どもが予約なしで保健室を訪れたときや、授業の一環として行う活動など、さまざまな形で実施されています。
スウェーデンのスクールナースは、「健康の専門家」であると同時に、「子どもに寄り添う身近な大人」でもあります。
学校で過ごす毎日の中で、体や心の小さなサインに気づき、子どもたちが健やかに育つことをそっと支えています。
チームで支える学校保健|スクールナースと生徒ヘルスケアチームの連携
生徒ヘルスケアチームに関わる専門職
スウェーデンの学校には、各クラスの教師以外にも、
- 学習補助員
- スウェーデン語の理解が十分でない子どものための言語補助員
など、多くの大人が関わっています。

さらに、「生徒ヘルスケアチーム」には、次のような専門職がいます。
- スクールドクター:
常勤ではなく、スクールナースの依頼によって学校に関わる医師です。生徒の健康診断や医療的アドバイス、特別支援が必要かどうかの判断などを行います。
- スクールカウンセラー:
心理的・社会的なサポートをする、ソーシャルワーカーのような職種です。生徒や家庭の生活背景に関わる、家庭環境、社会問題、経済的困難などへの対応を行います。
- 学校心理士:
学習や発達、メンタルヘルスに関する専門的な評価や、カウンセリングを行います。
- 特別支援教育士(Specialpedagog):
発達障害や学習困難のある子どもに合わせて、教育支援を計画・実施する職種です。
- 社会教育士(Socialpedagog/ソーシャルペダゴーグ):
学校内で、生徒の社会的・心理的なサポートを行います。
週1回のチーム会議で話し合われていること


▲改築したばかりのスウェーデンの学校。0年生から9年生が在学中。
こうした多くの専門職がチームとなり、週に一度は会議を開いて、
- どの子どもに、どのような特別支援が必要か
- 保護者との関係づくりを、誰がどのように進めるか
- 学校の外のサービスとつなげるべきか
などを話し合いながら、サポートの方針を決めています。
必要に応じた医療・福祉機関との連携
スクールナースは、生徒本人や保護者、教員、生徒ヘルスケアチームの専門職と協力するだけでなく、必要に応じて、
- 小児精神科チーム
- 栄養士
- 小児専門眼科
- 家庭医
といった医療機関や福祉サービスとも連携します。
こうして、子ども一人ひとりのニーズに合わせた支援につなげていきます。
個別の健診と健康面談|0年生〜中学1年生までの健康診断と相談の流れ


▲スウェーデンの小学校の保健室の待合スペース
スウェーデンの学校では、小学0年生・2年生・4年生と中学1年生を対象に、定期的な健康診断と健康相談が行われます。
0学年、2年生では保護者も一緒に行ないます。
健康面談は、事前にスクールナースが教室に行って、スクールナースの顔と名前を知ってもらいます。
子どもが安心して健診と健康面談を行えるように、事前に内容や目的について年齢に合わせた説明がされます。
小学0年生:新しい環境への適応と基本的な発育チェック

0学年では、学校という新しい環境に子どもが慣れているかを中心に、基本的な
- 成長測定
- 視力
- 聴力
の検査が行われます。子どもケアセンターからの発育情報とつなげて、継続的なチェックとケアを家族としていきます。
小学2年生:生活習慣と予防接種のサポート

2年生でも基本的な身体チェックや成長測定、簡単な生活習慣についての話を通して、
- 健康的な食事
- 運動の習慣
を身につけるサポートを子どもと保護者にします。
保護者は、希望する時間に面談の予約をとり、子どもと一緒にスクールナースを訪れます。
また、この健診の際に小児への予防接種の追加摂取をしていく学校もあります。
2年生でもまだまだ注射が怖い子どもは多いので、親がそばにいる環境で行うことで、不安をやわらげることができます。
小学4年生:思春期に向けた心と体の健康面談

4年生では、面談への参加は保護者の希望がある場合になり、一人ひとりの生徒が30〜40分の時間、スクールナースと、
- 身体の発達
- 思春期の身体変化
- 学校生活
- 友だち関係
など、社会的・心理的健康状態について話しをします。
アンケートや面談を通して、子どもたちの
- 家庭環境
- 学習環境
- 生活習慣
について把握し、必要なサポートを提供します。
中学1年生:ストレス・不安・将来を見据えた個別相談

中学1年生では、思春期の身体変化や将来の不安や、テストのプレッシャーも高まり精神的な課題が増えるため、より個別性の高い相談が行われます。
- ストレス
- 不安
- 睡眠
- 食生活
- アルコール
- たばこ
- ドラッグ
などの問題についても話し合い、将来の生活習慣や健康管理について考える機会にします。
全ての健診において個々に行われるため、クラスの友達に体を見られたり、体形を比較するようなこともなく、子どもにとって安心した環境で健診が行われるのはよいと思います。
また、子どもの発育について、どのような状況なのか、健康のためにどのような生活習慣の改善が必要なのかを、その場で子どもの知識レベルに合わせてアドバイスできることは、個別的なケアのためによい環境だと思います。
この健診と面談は、子どもたちが安心して学び、成長できるようサポートするスクールナースにとってメインの仕事ともいえます。
子どもへのわかりやすい説明と守秘義務|スクールナースが大切にする同意と信頼関係

▲スウェーデンの学校の敷地はスペースがとられていて緑も多くリラックスしながら通学時間を楽しむことができます。
多くの子どもは、スクールナースの名前や顔を知っていますが、健診や予防接種のときには緊張していることも多いです。
どんな検査をするのか、予防注射があるのか・ないのかを事前に知っていると、不安は軽減します。
そのため、各クラスでの事前の説明だけでなく、子どもがスクールナースの部屋に入ってすぐ、絵を使った丁寧な説明も行います。
さらに、子どもがどの検査からしたいのか、予防接種を先に済ませたいのかなどを、自分で決めることもできます。
子どもが中心であり、大人が意見を聞いてくれることを、子どもも感じられる健診です。
子どもの情報を守る守秘義務と同意の取り方

また、健診の結果や、面談での子どもの個人情報について、スクールナースは
子どもの同意なしに保護者にも、担任の先生にも、他の専門職にも話さない
ということを、毎回伝えます。
これは、子ども自身が「自分の情報を誰が知っているのか」を理解し、スクールナースとの信頼関係を築くうえでも大切なことです。
トラブルや悩みへの対応と子どもの意思の尊重
もし生徒が、クラスでのトラブルや学校での困難について話したときには、
- 担任の先生に相談して、トラブル解決のために助けてもらいたいのか
- このトラブルを自分で話したいのか
- スクールナースから話してほしいのか
といったことを具体的に確認し、子どもの意向にそって支援や多職種連携をしていきます。
どんな時でも、丁寧なコミュニケーションによって、子どもの尊厳が守られ、子どもの考えが尊重されながらサポートしていきます。
まとめ|子どもの自己決定と医療との対等な関係を育てるスウェーデンのスクールナース

スウェーデンのスクールナースは、子どもと一緒に話し合いながら健康増進活動を進めており、それによって一人ひとりが持つ力が引き出され、主体的な行動を促すことにつながっています。
子どもが自分のことを話す機会があることや、医療者の大人が子どもの意見や選択に耳を傾ける時間があることは、将来、医療と対等な関係を築くベースになり、医療の自己決定ができる大人へと成長していくことにつながるのかもしれません。
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- ウプサラ
2008年からスウェーデン王国、ウプサラで暮らしています。スウェーデン人の夫、3歳の娘の3人家族。森でのベリー摘み、湖での水遊び…日本とはちょっと違った子育てをしつつ、北欧文化を体験する日々です。 母親も外で働くのが当たり前の国での社会のしくみ、女性たちの生き方もお伝えしたいと思います。